意匠がよくわかる!初心者用Q&A講座

このセクションでは、意匠の制度の概略について、知的財産権になじみのうすい方でも容易に理解できるようにQ&Aの形で簡単に説明しました。

Q1:意匠の制度の概略について教えてください。

 意匠法第1条には、「この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」とあります。
 また、意匠法第2条には、「『意匠』とは物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」とあります。
 つまり、意匠制度とは、物品の美的外観を保護するものです。
 物品の外観は、一見してだれにでも識別することができるため、容易に模倣されるおそれがあります。今日、偽ブランド品等が出回っているのも、この模倣容易性によるものといえます。
 そこで意匠制度は、新しく創作した意匠を創作者の財産として保護する一方、その利用を図ることも定めて、産業の発達に寄与しようとするものです。

Q2:意匠を取得することによってどのようなメリットがあるのですか?

まずは、以下に示す図を見てください。

上図に示すように、意匠権の効力は①自分で実施する場合、②侵害者に対して権利行使する場合、③他人の実施を許諾する場合の3つに分けて考えることができます。それでは、それぞれについて見ていきましょう。
 上図に示すように、意匠権の効力は①自分で実施する場合、②侵害者に対して権利行使する場合、③他人の実施を許諾する場合の3つに分けて考えることができます。それでは、それぞれについて見ていきましょう。

① 自分で実施する場合
 意匠権を取得すると、登録意匠及びこれに類似する意匠を独占的に実施することができます(23条)。類似する意匠までを独占的に実施できることにしたのは、意匠権の効力範囲を登録意匠(登録時の図面に表されている意匠)に限定してしまうと、登録されたデザインに少し変更を加えただけで権利が及ばなくなってしまい、第三者の模倣から実効的な保護を図れなくなってしまうからです。

② 侵害者に対して権利行使する場合
 意匠権を取得すると、侵害者又は侵害するおそれのある者に対して差止請求をすることができ、同時に侵害者が保管している在庫の廃棄請求等をすることもできます(37条1項、2項)。また、侵害者に対して損害賠償の請求をすることも当然可能です(民709条)。

③ 他人にライセンス許諾等をする場合
 意匠権を取得すると、自己の意匠権について他人にライセンスを許諾することができます。このライセンス許諾については、他人の独占的実施を認めて自分自身の実施も制限するという方法(専用実施権、27条)や、他人の実施を認めるが自分自身の実施は制限しないという方法(通常実施権、28条)等があります。また、意匠権を他人に譲渡することも可能です。

Q3:どのようなデザインが意匠と言えるのでしょうか?

 先ほど少し触れましたが、意匠法第2条には、「この法律で『意匠』とは、物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものをいう。」とあります。
 つまり、意匠として保護されるためには、①物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、②視覚を通じて美観を起こさせるものである、必要があります。
 以下、それぞれの要件について見ていきましょう。

① 「物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」であること
 意匠は物品とセットでなくてはいけません。意匠は物品の美的外観であり、物品と形態が一体不可分に結合したものだからです。そのため、以下のようなものは意匠法では保護されません。

  1. 無体物(ネオンサイン、打ち上げられた花火等)
    ※但し、「ネオン管」「花火の五尺玉」は有体物であり物品に含まれます。
  2. 固体以外のもの(電気、光、熱、液体、気体等)
    ※但し、「あめ細工」「アイスクリーム」等は固体の状態で取引されるので物品に含まれます。
  3. 物品から離れたデザイン(タイプフェイス、アイコン、CG、ロゴマーク等)
    ※但し、携帯電話や腕時計等の液晶画面のデザインは、一定の要件を満たせば意匠として認められます。尚、平成18年改正意匠法では、「物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であって、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるもの」が新たに意匠として認められました。(携帯電話の通話者選択用画面デザイン、アプリ画面、磁気ディスクレコーダーのテレビモニターに表示される録画予約用画面デザイン等)
  4. 物品自体のデザインでないもの(靴紐の結び目、ネクタイの結び目、サービス意匠(ハンカチを花の形にして包装する)等)
    尚、物品の部分についても、その形状のデザイン、その形状と模様が結合したデザイン、その形状と色彩が結合したデザイン、その形状と模様と色彩が結合したデザインは、意匠として保護の対象となります(これらを「部分意匠」といいます)。

②「視覚を通じて美観を起こさせるものである」こと
 意匠は視覚を通じて美観を起こさせるものでなければいけません。意匠は流通市場で需用者の視覚を通じて認識され、その効果を発揮するものだからです。そのため、以下のようなものは意匠法では保護されません。

  1. 視覚以外の他の感覚によって認識されるもの(音、におい、手触り、味等)
  2. 肉眼で見えないもの(粉状物、粉状物の一単位等)
    ※但し、宝石等のカットは通常の取引でルーペ等が使用されて判別されるため、意匠を構成します。
  3. 外部から見えないもの(機械の内部構造等)
    ※但し、冷蔵庫やピアノの内部は通常の使用状態で外部から観察できるので意匠を構成します。

Q4:意匠登録を受けることができる意匠はどのようなものでしょうか?

 意匠を創作しても、それだけで無条件に意匠登録される訳ではありません。意匠権は独占排他権であり非常に強い権利ですから、登録されるためには所定の条件を満たさなければなりません。以下、簡単に見ていきましょう。

①工業上利用できる意匠であること(3条1項柱書)
 意匠法は産業の発達に寄与することを目的とする法律ですから、意匠法で保護されるためには保護を受けようとする意匠が工業上利用できるものでなければなりません。ここで、「工業」とあることから、例えば、「農業器具はだめなのか?」という疑問を持たれるかも知れませんが、安心してください。ここでいう「工業上利用できる」とは、意匠に係る物品が、工業的生産過程を経て量産可能であることを意味します。ですから、農業器具であっても工場等で量産できるものであれば意匠登録を受けることができます。したがって、以下のようなものは保護対象から外れることになります。

  1. 不動産(建築物等)
    ※但し、「組立家屋」「門柱」等はそれ自体が量産可能であるため工業上利用できる ものとされます。
  2. 自然物、天然物(水晶の結晶、貝殻等)
    ※天然物には農業的生産手段によるもの(花や果実の改良種)、漁業的過程で作られたもの(魚の改良種)も含みます。
  3. 美術的著作物、美術工芸品等の一品制作物
    ※物品に転用することによって工業的な量産が可能となったものは工業上利用できるものとされます。

② 新規性を有すること(客観的に新しいこと)(3条1項各号)
 意匠の新規性とは、意匠が既存の意匠と区別しうる客観的創作性を有していることをいいます。意匠権は独占排他権であり非常に強い権利ですから創作性に欠ける意匠を保護してしまうと第三者の自由な実施を制限することになります。これでは、意匠法が目的とする産業の発達をかえって阻害することになってしまいます。そのため、新規性を有することを登録要件としているのです。具体的には、公然知られた意匠又はこれと類似する意匠等については新規性が認められません。
 尚、商品を販売してみたら売れ行きが良かったので意匠登録を望むようになった場合等、本来であれば新規性がないと判断される場合であっても、一定の要件下において新規性を喪失していないものとして扱ってもらうことができる場合もあります(新規性喪失の例外)。

③ 創作容易な意匠でないこと(3条2項)
 新規性を有する意匠であっても、公然知られた意匠に基づいて簡単に創作できてしまうような意匠は登録されません。

④ 最先の出願についての意匠であること(9条)
 最先の出願についての意匠でなければ登録されないことを「先願主義」といいます。意匠法における先願主義とは、同一又は類似の意匠について、二以上の意匠登録出願が競合した場合に、最先の出願人のみに意匠登録を認める主義をいいます。意匠の重複登録を排除するために設けられた規定です。
以上の説明は意匠の登録要件の一部に過ぎません。ここで説明した要件についても実際はもっと複雑ですし、ここでは説明できていない要件もあります。興味を持たれた方は、お気軽にお問い合わせください。

Q5:意匠にはどのような種類があるでしょうか?

 意匠を適切に保護するため、意匠法には様々な制度が設けられています。ここでは、これら意匠法特有の制度について説明したいと思います。

※ステップ2の制度とステップ3の制度は同時に利用することができます。

①通常の意匠登録
 以下に説明する諸制度を利用しなかった場合の保護形態です。意匠権者は、登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有します(23条)。

②部分意匠の意匠登録
 部分意匠の意匠登録制度とは、物品の部分について独創的で特徴ある創作がなされた場合に、この部分について意匠登録を認めて保護する制度をいいます(2条1項かっこ書)。この制度を利用すると、例えば以下のように「ペットボトルの一部」や「腕時計用側」というような物品の一部について意匠登録を受けることができます。尚、平成18年法改正によって、「物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合には、物品の操作の用に供される画像であって、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれる」ことになりました。

③組物の意匠登録
 組物の意匠制度は、同時に使用される二以上の物品について、一定要件のもとで一意匠として出願できる制度(8条)で、組物の意匠権の効力は組物全体として同一又は類似の意匠に及びます。この制度を利用すると、いわゆるシステムデザインを効果的に保護することができます。通常の意匠登録では個々の意匠の類否しか問題にしないので、システムデザインの個々の構成物品ごとは似ていない一方、全体として似かよったイメージを呈するような意匠について侵害を問うことができません。このような場合に組物の意匠制度を利用することで、システムデザイン全体として似ている意匠に対して権利行使することができるようになるのです。組物の意匠の例としては以下のようなものがあります。

④関連意匠に係る意匠登録
 関連意匠制度とは、一定の期間内に互いに類似する複数の意匠を創作した場合に、それらの中から選択した一の意匠(これを「本意匠」といいます)だけでなく、本意匠に類似する意匠(これを「関連意匠」といいます)も併せて意匠登録を受けることができるというものです(10条)。互いに類似する複数の意匠を創作して共に登録を受けたいと考えた場合であっても、通常の意匠登録出願をしたのでは先に述べた先願主義の規定(9条)によってそのうちのどれか一つの意匠についてのみしか登録を受けることができません。しかし、関連意匠制度を利用することで、一つの意匠(本意匠)に類似する他の複数の意匠(関連意匠)についても本意匠と同様の保護を受けることができるようになります。つまり、関連意匠制度を利用することで、同時期に創作した一つのデザインコンセプトに係るバリエーションの意匠を効果的に保護することができます。通常の意匠登録出願をした場合の権利範囲と関連意匠制度を利用した場合の権利範囲を示します。

⑤動的意匠の意匠登録
 動的意匠とは、物品の形状等がその物品の機能に基づいて変化する意匠であって、その変化の状態が静止状態からは予測できないものをいいます(6条4項)。この制度を利用すると、例えば、傘やびっくり箱の玩具のように静的状態からはその動的な状態が容易に予測できない場合に、その動き全体を一意匠として、一出願で完全な権利取得が可能となります。

⑥秘密意匠制度の利用
 意匠登録出願人は、意匠権の設定の登録の日から三年以内の期間を指定して、その期間その意匠を秘密にすることを請求することができます(14条1項)。具体的効果としては、意匠権の設定登録の日から請求期間の満了の日まで、願書及び添付図面等の内容が秘密にされます。つまり、意匠公報には意匠権者の氏名等、書誌的事項のみが掲載されることになります。この制度を利用することで、将来の流行に備えた意匠をストック意匠として、権利化しつつも秘密にすることができます。

Q6:意匠登録までの手続きの流れについて簡単に教えて下さい。

 意匠登録出願をしたあとの簡単な流れをフローチャートによって説明したいと思います。意匠登録出願には専門的な知識も必要となりますので、出願を考えておられる方は、お気軽にご相談ください。